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従来の飲食店営業が、近年必ずしも良い業況下にないことは、一般に認識されていますが、この点についてはわれわれすし業も例外ではありません。たとえば、平伐3年度から平成6年度までの、すし業に対する家計支出動向の対前年度増減率は連続して1パーセント前後マイナスでした(総務庁「家計調査年報」より)。また、すし業の施設総数は昭和61年の48,001施設から平成3年の45,856施設へと5年間で約5パーセント減少しています(総務庁「事業所統計調査」より)。これらの傾向は、業界全体としてみた場合、まだそれはど深刻な事態とはいえないかもしれません。しかし、規模や業態別にみると、大手業者がチェーン化や低価格で売上を伸ばす傍らで、中小の個別店の営業が不振という、放置できない現実があります。
このような傾向の原因としては、バブル経済の破綻以来停滞している平成不況とこれに起因する価格破壊現象、飲食店業界における熾烈な競 争、外部、とくに大手資本のサービス業分野への参入、国際化の進展による外食需要の流出、各種食材の価格や人件費の高騰など、多くの環境的要因の悪化が指摘されています。たしかにこれらの要因の動きは、無視できない重要なものです。しかし、はたして原因が環境的なものだけなのかどうかについては、大いに疑問があります。
これまですし業界は、伝統を背景に技術を磨き、サービスの改善に努めてきました。しかし最近の業種を巡る動静は、それだけでは個々の営業を成立させ、すし業を成長性のある業種として存続させることが難しくなってきたことを示しているのではないでしょうか。事業の存続と発展のための基礎的基盤は、成長と変化にありますが、以下に述べるように、その両方についてすし業は停滞していると判断されます。
わが国の国民の所得は、国際的に比較しても高い水準にあり、通常の商品やサービスについては、だれもがすきなものを購入できる時代になりました。また国民の外食需要は、量的にも金額的にも総体的には定まってきています。それがどういう割合で各飲食店業種に振り向けられるかも、大体落ち着いています。
現在、日本全体としてのすし業の年間総売上高は1兆3千億円程度と推計されており、それが飲食店業全体の売上に占める割合は約9パーセントです。これは、すし業の現在の商品とサービスに対して国民が与えたシェアということになります。人口も横ばいから逓減に移行しつつあり、将来、人口増による市場の量的成長はありえません。いずれにせよ、現在のすし業のあり方のもとでは、今後飛躍的な売上増は期待できない、ということです。基礎的基盤の一つである量的成長の余地は、歴史の古い業種としてのすし業には、ほとんどないということです。それどころか、他の飲食店業種のこれからの動向の如何と、消費者の嗜好の変化によっては、現在のシェアを−一部失うという事態も十分に考えられます。
そこで、もう一つの基盤としての変化が、これからのすし業発展の決め手になるしかありません。ところがすし業には、変化を受け容れにくくしたり、変化を妨げる要因が少なからずあります。すし業が伝統的食文化の一つを形成していることや、中小の独立した個別事業が多いことなどがそうした要因の例としてあげられます。伝統は、自分達だけのものではなく、国民全体の価値であることから、それを勝手に変えることにはためらいがあるでしょう。また、中小のすし店の事業主が望むものは、ある水準の所得さえ得られれば、あとは定常的で穏やかな生活であって、大きな収入や地位は得られるかもしれないが、厳しい資金繰りや気疲れする労務管理に追いまくられる経営者のそれではないかもしれません。
しかし、現在のすし店の営業の平均的な実態は、必ずしも事業主の満足するような結果を示してはいません。全国すし商動態調査(平成6年度)の結果から推計すると、1事業当たりの平均年商額は約2,300万円、平均従業者数(事業主および家族従業員を含む)は約3名です。仮に材料費率(粗利率)を50パーセントとしますと、従業者(事業主を含む)1人当たりの粗収入額は約383万円ということになります。この中から各種営業費用や公租公課などを差し引くと、事業主や従業員の給料に回せる分はさらに低いものとなります。このような状況の下では、穏やかな生活はおろか、事業の継続さえ危うくなりかねません。現に動態調査の報告書も、平均的規模クラスを中心に、年間で350〜400店はど施設数が減少していると推定しています。以上はあくまでも全国調査の平均値による計算ですから、都市と地方、より規模の大きい営業などの実態と比べると、ある程度の食い違いがあるかと思います。また平均値ということは、実際にはこれ以下の営業が数多く存在することを意味します。さらに、動態調査の対象となった店には、比較的良好な状況にあるものが多いことを考えると、現実はさらに厳しいものと
思われます。いずれにせよ、以上が偽らざるすし店経営の実態であり、全体としてのすし業界の置かれた状況が、「危機的」という表現が決して大袈裟ではない、極めて厳しいものであることは確かです。このような事態に際し、業界が一丸となって対策を講じる必要があることはいうまでもありません。
すし業を巡る環境には極めて明るいものもあります。それは、現在わが国で進行している経済はサービス化です。これは、国民所得(約480兆円)の中で第三次産業の占める割合が増加している、ということです。現在この割合は約6割(約290兆円)ですが、近い将釆には、7割(約34O兆円)ぐらいまで増える見通しです。仮に西暦2,000年のわが国の年間国民所得を500兆円とすると、350兆円が第三次産業の産み出す分で、これは現在と比べて年間50兆円、比率にして約2割の増加、ということになります。これを出来るだけ多く自分のものにしようと、第三次産業の各業種が競っているわけですが、すし業などの飲食店業には、工夫と努力次第でかなりのチャンスがあります。
もう一つの可能性は、消費者の生活の高度化にあります。高所得時代に入って20年、このところ停滞ムードが漂っているとはいえ、わが国の年間国民所得は減っておらず、国際的に見ても、依然として極めて高い水準にあります。その中で国民の意識や生活は、あらゆる面で変容しようとしています。それは、全体から個へ、物質的なものから精神的なものへ、量から質へ、近間から遠くへ、機械作りのものから手作りのものへ、標準的なものから個性的なものへ、文明から文化へなど、価値観や関心の方向の転換に見ることが出来ます。そうした変化の中で、伝統に培われた調理技術を基に、顧客に対して個別で質の高い商品とサービスを提供する中小のすし店が、大きな可能性と使命をもっことは明らかです。
以上のような認識を背景に、全国すし商環境衝生同業組合連合会は、激しく変化する社会・経済状況をすし業界の視点から展望し、その中で個々のすし店と業界がどう対応していくべきかを探る必要性を痛感し、必要な施策をこのたびビジョンという形でまとめることにした次第です。
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