『21世紀に向けてのすし業ビジョン』
全国すし商環境衛生同業組合連合会
21世紀に向けてのすし業ビジョン策定委員会
(文責:策定委員会委員長 上智大学教授 坂本康實)
【1章】 【2章 1〜5】 【2章 6〜10】 【3章】 【4章】

第2章 最近の社会・経済的環境の変化とすし業の課題 (1〜5)

すし業が現在当面している課題の多くは、近年の社会的要因の変化に、すし業が十分に対応しきれないでいることに起因するものと考えられます。そしてそれらの社会的要因の変化は、われわれの国が高所得社会になったことと関係があります。

昭和20年、極度の社会的、経済的荒廃から再出発したわが国は、その後の半世紀の間に、世界の歴史にも類をみないような復興と発展を記録しました。最近の国民1人当たりの年間GDP(国内総生産)は、米ドルに換算して3万ドルを超え、全世界において1、2位を争うまでになりました。それに伴って、国民の消費にかかわる意識や行動は変化し続け、環衛業など中小企業が中心を占める業種は最近、そのスピードについて行けなくなっています。そのギャップが、たとえばすし業におけるいろいろな問題点として表面化しているのです。

以下に変化した社会的要因の主なものと、それらがすし業の問題とどう関わっているかを考えてみましょう。

1.高齢化と少子化
わが国の人口構成は確実に高齢化の道をたどっています。日本経済研究センターは、平成2年(1990)に12パーセントであった65歳以上の老齢者の人口比率は、平成22年(2010)には20パーセントになると推計しています。こうした人口構成の変化は、すし業にとって大きく分けて四つの影響があります。

その一つは、消費がより成熟化することです。これまですし業界は、現役の世代を中心にして営業し、年少者や高齢者に対する配慮はあまり考えませんでした。年少者はともかく、高齢者に対する営業的な施策はほとんどなかったといってもよいでしょう。これからは、あらゆる世代の消費者を視野にとらえ、より緻密な対応に配慮した経営が必要になります。その中で高齢者を経済的弱者としてとらえるのではなく、豊な新しい需要層としてとらえて、これに積極的に対応することが必要です。

もう一つは人手の問題です。人口の高齢化と平行して出生率は次第に低下し、若年層や青年層の減少が観察されています。 たとえば18歳の人口数は平成3年がピークで、その後減少が続いています。これまで、若年層と青年層を中心に構成されていたすし業の雇用は、今後ますます厳しさを増すでしょう。これからは、中・高年層をも対象とした雇用を考えていかなければなりません。

高齢化と言えば、すし業にはもう一つの問題があります。それは、事業主の高齢化です。少子化や高学歴化の流れの中で、後継者のいない事業の数が増えています。このような業界自体の高齢化傾向は、単に事業の継続の困難だけではなく、成長や変化に対応できないと言う、すし業の不活性化を引き起こしています。この問題にどう対処するかも、これからのすし業にとって極めて重要な課題となります。

残る一つは、高齢化する社会に対するすし業界の姿勢の問題です。事業というものはプラスの成果を挙げていないと存続できません。そのために、社会福祉など社会的貢献についてはどうしても後ろ向きの姿勢を取りがちです。しかし現代のコンセンサスは、企業など収益事業体も社会の一員として、福祉や環境保全、あるいは資源保護といった社会や地球の問題に対して関心を持ち、積極的に貢献していくことを求めています。すし業も、個店、地域、業界全体のあらゆるレベルで、自分達が社会の一員としての意識に目覚めていることを示すことが望まれます。高齢化社会との関係でいえば、地域ごとの定期的な老人福祉施設の慰問、在宅高齢者に対するすし配布サービスの実施などが考えられるでしょう。

2.核家族化の進展

高所得化した現代社会においては、個人や家庭の消費行動にも大きな変化がみられます。その一つが核家族化です。以前は、外食は独身者や家計の維持者である夫・父親が主体で、妻・母親や子供たちは内食中心で、外食経済には比較的疎遠でした。それが昨今では家族ぐるみの外食が多くなっています。このような傾向を受けて、ファミリー・レストラン・チェーン、ファーストフード・チェーンなどが急成長しました。また核家族層にとって、すしは魅力的な食物であるものの、外食のすしは比較的高価格な商品であるため、回転ずし・チェーンやテークアウトずし・チェーンが出現し、スーパーやデパートの食品売り場にバラ売りや

ラップ包装のすしが出回るようになったのも近年の動向です。たとえこれらの流れが必然的なものであったにせよ、その動きのほとんどが、本来のすし業界の外部から生じているという事実は、われわれが社会的環境の変化に十分対応しえなかったことを意味するものです。

3.女性の社会進出

現代社会の大きな特徴の一つは、女性の社会的進出でしょう。豊かな社会の中で、経済力と主体性を充実させた女性は、社会のあらゆる分野でその存在感を高めています。外食経済においても、女性の嗜好や消費行動は大変重要になっています。近年、飲食店業界における成功事例は女性の需要を的確に掴んだものが多くなっています。いまや外食産業の流行は、女性によって創られるといっても、過言ではないでしょう。

これに対してすし業界はこれまで、どちらかというと男性中心のあり方を続けてきました。西洋料理店、中華料理店、ビアホール、喫茶店、懐石料理店などには、女性客にターゲットを設定して成功している事例が沢山ありますが、すし店にはあまり見掛けません。どうしてそうなのか、よく分析してみる必要があります。

さらに、顧客としての女性だけではなく、すし業の営業を支える力としての女性についても、新しい考え方を持つ必要があると思います。これまでも接客係りや裏方としては、とくに家族従業員としての女性は重要な役割を果たしてきました。しかし将来の雇用環境が厳しくなることや、女性を重要な顧客層として獲得していくことの必要性などを考えると、調理や仕入れ、あるいは商品やサービスの開発といった分野においても、女性の能力や感覚を積極的に取り入れていくことが重要になるでしょう。

4.交通手段の進歩とモータリゼーション

新幹線、航空路線、高速道路など交通手段の整備、そしてモータリゼーションの進展により消費者の行動範囲は、昔とは比べ物にならないほど大きくなりました。それとともに、飲食店の立地や、客用の駐車スペースなど備えるべき要件も様変わりしています。駅前商店街とか住宅地域に隣接した商店街の一角といった、従来のすし店の一般的な立地は、近年確実に商圏の縮小に見舞われています。これに対して、駅ビルのレストラン・フロアー、地下街、都市郊外のバイパス沿線、同じく都市周辺の大型ショッピング・センター内などが、飲食店の新しい立地として登場してきています。

これらの新しい立地に共通のことは、いずれも駐車機会が与えられていることです。駅ビルや地下街の近くには必ず規模の大きい公共駐車場がありますし、郊外のショッピング・センターや郊外型の飲食店は、駐車スペースを広く取りたいこともあって郊外に立地しているのです。すし業界もだいぶ前から、駐車スペースの確保の重要性については認識し、努力してきましたが、大多数の営業の施設は、もともと敷地的に余裕がないうえに、努力が個店単位であったため、思い切って立地を代えた営業以外は、ほとんど問題を解決していないのが実情です。そういうすし店は、経営環境としてはより広域な利用者を誘致できるようになったの に、ハード的条件の不備のため、新しい環境を自分の営業の成果に結び付けられないでいるわけです。

5.マルチメディア等情報化の進展

今日は「情報化社会」といわれます。最近ではまた、マルチメディアとかインターネットという言葉が流行になっていますが、両方とも情報化の最先端にかかわる用語です。これまですし店は、情報化とはあまり縁がないと思い込んでいましたが、実はマルチメディアもインターネットも、これからのすし店経営に大きな影響を持っものであることが判ってきました。

マルチメディアの言葉の意味は、メディア(テレビ、電話、新聞、パソコンなど情報伝達手段のこと)の多様(マルチ)化ということです。これは現代の情報手段の種類が増えることと同時に、それらが単一の機器に統合化していくことを意味しています。たとえば、昔の電話は相互に話をする装置でした。今日の電話には、ファックスという文章や画像を送るというメディア機能が組み合わされています。ファクスにはコピー機の機能もついています。今日の電話はさらに、天気予報とか、時刻知らせなどの情報機能も持っています。また、列車や飛行機の予約をしたり、通信販売の商品を注文することも電話でできます。要するに、現在の電話というメディアには沢山の(=マルチ)情報手段(=メディア)が統合されているのです。

将来的には、現在のテレビを中心にして、これに現在の電話、パソコン、ゲーム機、新聞、カラー・プリンターなどの機能が統合していくと考えられています。そして消費者は、その様なマルチメディア化の中で情報を入手し、それらによって日常の生活を営むようになります。同じように事業者もマルチメディアによって必要な情報を集め、自分の提供 する商品やサービスを市場に周知させ、そして売上の一部をそこで揚げるようになります。このような動きはすでに現実のものになり始めています。現在のテレビには、マルチメディアの基本的条件である双方向牲がありませんが、平成8年の10月から簡易型双方向放送サービス(アイティービジョン)が各テレビ局により開始されます。

これはテレビ局側が現在のテレビ電波のすき間を利用して、いろいろな検索可能な情報を送り、視聴者側はリモコン操作で、アイティービジョンに接続された在来の電話回線経由で、クイズ番組の回答やホームショッピングの注文をを送ったり、局側が提供する情報を検索したりすることができるシステムです。これでテレビは双方向性を獲得し、電話とテレビの合体の最初のステップが実現することになります。家電メーカーもこれに合わせて、この秋にアイティービジョン対応のテレビ受像機や、在来型テレビ受像機にアイティービジョン機能を持たせるためのチューナーを売り出す予定です。関係筋は、今世紀内にテレビ受像機の国内総出荷台数の半分近くがアイティービジョン対応機種になると予測しています。

また、パソコンと電話回線を接続して行ういわゆるパソコン通信は、これまでの電話や郵便に代わるものとして注目を浴びています。現在では、世界中のパソコン利用者を結ぶネットワークが形成されていますが、それがインターネットです。このネットワークに加入すると、世界中の加入者とパソコンの画面の上で文章、図表、静止画像、動画、音声で相互にコミュニケートできます。また世界中の図書館の蔵書を調べたり、大学、研究所、団体などが持つ各種のデータベースを利用することもできます。現在、世界中でインターネットを利用している人は1億人以上といわれています。わが国でもインターネット加入者は、爆発的に増加しています。インターネットがどのくらい普及しているかについての、一つの参考情報ですが、日本相撲協会が平成8年9月に開設した「大相撲ホームページ」には最初の5日間で100万件を超える利用があったそうです。

インターネットでは加入者は、ホームページというものを開設すると、自分についての情報を常時発信させておくことができます。最近は多くの企業がホームページをを開設し、これを広報や宣伝に利用しています。政府や地方自治体でも、省庁や部局ごとにホームページを設け、情報提供や政策の説明などに用いるようになりました。個人でホームページを開設し、個人の意見や行動を発表しているケースもあります。そのような動きの中で、最近では業種や地域の商店街などでもホームページを開設するところが出始めています。ホームページと通信販売が合体したオンライン・ショッピングも増えています。インターネット先進国である米国の場合、10年後には、家計支出の20パーセントがオンライン・ショッピングにより販売されると、専門家筋は予測しているそうです。

最近、大手企業の広告や官公庁の広報の片隅に、一見したところ意味不明の http://www.xxxx.or.jp./というような文字と記号の列を見掛けることがありますが、これがインターネットのアドレスと呼ばれる、電話でいえば電話番号に相当するものです。すでにすし店でもホームページを開設し、アドレスを持つところがあると思います。我々すし業もなるべく早い時期に、組合、支部、グループ、個店などいろいろなレベルでアドレスを持つようになりたいものです。

インターネットと並んで、すし業の経営に重要な意味をもっようになると考えられるものが、バーチャル・リアリティ(仮想現実)とかサイバー・スペース(電脳空間)と呼ばれるものです。コンピュータの巨大な記憶容量の中には、たとえば大きな建物とか都市の一部分を、その外観から内部構造まで、立体的な画像として書き込むことができます。要するに、コンピュータの記憶装置の中にバーチャルな、すなわち仮想の空間を作り出すことができます。この空間はコンピュータの画面に呼び出すことができます。そして空間内の移動は自由です。われわれはコンピュータの内部の仮想空間を、歩き回ることができます。

他方画像の質は、コンピュータ・グラフィックス(CG)という技術の進歩で、大変高度になりました。「ジュラシック・パーク」という映画をみた人は、スクリーンに登場するCGで描かれた恐竜の姿と動きが、余りにも真に迫っているのに驚いたはずです。最近ではテレビ番組の導入部やテレビ・コマーシャルなどにCGを利用したものが増えています。

現在開発中のものに、インターネットとバーチャル・リアリティとコンピュータ・グラフィックスを結び合わせたバーチャル・ショッピング・ストリートとかバーチャル商店街と呼ばれるものがあります。これはデパートや商店街などをバーチャル化してインターネット上ににホームページとして開設しようというものです。消費者は自宅のパソコン、将来はマルチメディア・テレビを利用して、居ながらにしてバーチャル・リアリティのデパートや商店街に出かけ、店内を見て回り、店の人から商品を見せてもらい、説明を受けることができます。それが商品の場合、気に入ればその場でクレジット・カードや電子マネーを用いて購入することもできます。すし業の場合でいうと、消費者はバーチャル商店街で適当なすし店を選んで、中に入ってメニューの現物を見せてもらったり、握りの実演をしてもらうことができます。お店で食べたい人は、バーチャル商店街を情報源として利用することになりますが、出前を顧みたい人はそこで注文できます。

以上で述べたマルチメディア化、インターネット、バーチャル・リアリティなどの高度情報化が、現実の世界にどのくらいの早さで到来するかについては、まだ意見は分かれています。しかし、技術的な問題は解決しており、一部が現実化しつつあるのは紛れもない事実です。いずれにしてもわれわれすし店としては、その様な動きに絶えず注目し、同時に自分自身の情報価値を高めることに励み、いつでも状況の進展にスムーズに対応できる態勢を整えておく必要があります。


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